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『ロシアのヴィオラ』と『ジャポニスム』


昨日今井信子さんのヴィオラや日本の曲のフレーズが使われている曲をご紹介したので、そのつながりで今日は、スウェーデンのBISレーベルから発売されている今井信子さんのヴィオラによる"The Russian Viola"『ロシアのヴィオラ』と小川典子さんのピアノによる "Japonisme" 『ジャポニスム~世界の作曲家の目に映った日本』についてお話しします。

まず、一枚めの"The Russian Viola"ですが、文字通り、ロシア人作曲家によるヴィオラ曲ばかりを収録したCDです。今井信子さんの演奏するヴィオラが、まるでチェロかと思わせるような層の厚い音色で朗々と謳い上げています。

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おすすめは、ショスタコーヴィチの遺作となったヴィオラ・ソナタです。この作品は、1975年の春から夏にかけて作曲され、彼が亡くなる三日前に完成されました。曲の冒頭にはアルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲冒頭のピチカートが引用され、第二楽章のグロテスクな踊りはマーラーとストラヴィンスキーを想起させます。また、最終楽章の冒頭13小節はヴィオラのソロに捧げられ、メロディーはベートーヴェンの「月光ソナタ」と同じリズムとメロディーへと続きます。また、彼自身の第五交響曲と、チャイコフスキーの第四交響曲などからも構想を得ているのがわかります。

RUBINSTEIN, Anton (1829-1894)
Nocturne, Op. 11 No. 2 (Track 1)
GLINKA, Michail (1804-1857)
Viola Sonata in D minor (Tack 2-3)
GLAZUNOV, Alexandr (1865-1936)
Elegie, Op. 44 (Track 4)
STRAVINSKY, Igor (1882-1971)
Elégie per viola sola (1944) (Track 5)
SHOSTAKOVICH, Dmitri (1906-1971)
Sonata for viola and piano, Op. 147 (Track 6-8)
Nobuko IMAI, viola
Roland PÖNTINEN, piano



二枚目の "Japonisme" 『ジャポニスム~世界の作曲家の目に映った日本』は、こちらも文字通り、日本の曲や日本が題材にされている曲ばかりが収録されているCDです。収録曲のほとんどが「世界初録音」という貴重な盤です。小川典子さんのピアノの透明感のあるシャープな音色がしっかりと明快にジャポニスムを表現しています。

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アンリ・ジル=マルシェックスはピアニストとして生涯のうち4度ほど日本を訪れており、1937年の5月にRetour du ToshiwaraLune d'automne a Idzoumoを東京で初演しています。いずれも日本人にとっては不評だったようです。このCDに収録されている曲ではジル=マルシェックスが日本で聴いたメロディーやリズムが採用されています。また、この曲はアルフレッド・コルトーに捧げられました。

ポーランド生まれのフランスの作曲家タンスマンは、1933年のアジア・ツアーの際に日本にも訪れました。日本滞在中に、宮城道雄の琴を聴き、その美しさに触発されたそうです。ここでは、都節の音階と琴の音の模倣が試みられています。

Theodor SZÁNTÓはウィーン生まれの作曲家で、1898年から1901年までベルリンでブゾーニに師事しました。彼は、バルトークやコダーイがまだ有名になる前から彼らの曲を紹介していました。また、彼は日本の音楽にも大変興味を持っており、彼の作品のなかにさまざまな形で組み込みました。

Walter NIEMANNは、日本の文化を賞賛しており、自宅にはたくさんの日本画が飾られていたそうです。彼はドイツ人作曲家ですが、ここでの収録曲からはどこか北欧色をいっぱい感じました。

サン=サーンスは、数々の異国風の作品を作曲しましたが、ここでは、パリ博覧会から影響を受けたらしい作品が収録されています。このオペラは、彼がジャポニスムを取り入れた最初の作品だそうです。

シリル・スコットは、イギリス人作曲家でありますが、ドイツのフランクフルトでフンパーディンクに学び、フランスの印象派の音楽から強い影響を受けました。彼は「イギリスのドビュッシー」としばしば呼ばれ、オリエンタルな哲学と神秘主義に自分を捧げ、インドや中国の要素を含んだ曲を作曲しました。ここでの収録曲には明確な日本的要素は見られませんが、明らかに中国風の作品とは異なっており、スコットの日本から受けたイメージが曲想から感じられます。

シラスは、オランダ生まれの作曲家ですが、パリでピアノと作曲法を学びました。オランダにいたころより日本との交流があり、どこかで日本の伝統音楽を耳にしていたようです。ここでの一風変わった音楽は彼が日本の音楽から得た印象を反映しています。

ポルディーニはハンガリー生まれの作曲家で、ハンガリー国内ではオペラの作曲家として有名ですが、世界的には、彼のLa poupee valsanteが、クライスラーによってヴァイオリン用に編曲されたことで知られるようになりました。ここでの作品は、ドビュッシーを想わせるような曲のなかに日本と中国の要素が含まれています。また、中間部のアルペッジョは琴の演奏を暗示させています。

パーシー・グレインジャーはオーストラリア生まれの作曲家で、ブゾーニのもとでピアノを学びました。彼は、民謡のメロディーを用いて多くの作品を作曲しましたが、ここに収録されている作品は、当時として例外的に斬新なもので、和声がまったく感じられません。ここでは、彼がオーストラリアの日本バザールで聴いた都節の音階と日本的なリズムが採用されています。

アルバート・ケテルビーは、イギリス生まれの作曲家です。ここに収録されている作品では、日本と中国のモティーフが一般的なスタイルで採用されています。最初の部分では、芸者が描かれ、第二部では花や鳥、そしてサムライを描いています。そして、第三部には君が代が使用され、ここでは単に異国的な象徴として、日本が採用されています。

GIL-MARCHEX, Henri (1894-1970)
Deux Images du vieux Japon (1936) (Track 1-2)
TANSMAN, Alexandre (1897-1986)
Complainte de Nikko from 'Le tour de Monde en Miniature' (1933) (Track 3)
SZÁNTÓ, Theodor (1877-1934)
In Japan (1918-22)
Four studies in Japanese harmony based on native songs (Track 4-7)
Sakura Sakura (1924)
No. 2 of 'Zwei Japanische Melodien' from the opera 'Taifun' (Track 8)
NIEMANN, Walter (1876-1953)
Japan, Op. 89 (1923) (Track 9-13)
SAINT-SAËNS, Camille (1835-1921)
Overture to the opera 'La Princesse jaune', Op. 30 (1872) (Track 14)
SCOTT, Cyril (1879-1970)
Soirée japonaise Op. 67 No. 4 (1907) (Track 15)
SILAS, Edouard (1869-1909)
Tokio, Japanese March (1894) (Track 16)
POLDINI, Ede (1869-1957)
Étude japonaise, Op. 27 No. 2 (1907) (Track 17)
GRAINGER, Percy Aldridge (1882-1961)
Arrival platform Humlet
from the suite 'In a Nutshell' (1908-16) (Track 18)
KETELBEY, Albert (1875-1959)
From a Japanese Screen (Track 19)
Noriko OGAWA, piano


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チュルリョーニスの時代』(佐藤泰一/村田郁夫訳、ヤングトゥリープレス 2008)
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by ciurlionis | 2009-01-10 22:30 | 音楽