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ラトヴィアの作曲家ペーテリス・ヴァスクスの"message"ほか 3CDs


初めてラトヴィアを訪れたのは確か2004年の9月だったと思う。バルト三国がEU加盟を果たした直後だった。その時私はまだロンドン留学中で、研究滞在されていた日本人の先生にお会いするためにリガを訪れたのであった。

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その時はガイドブックのようなものを一切持っていなかったので少々不安に思いつつも、アルヒーフに行ってくるという先生と別れてひとりリガの街を歩いてみた。そこには、大きな生鮮市場があったり、ユーゲントシュティルの建築群(映画監督のエイゼンシュテインの父による建築物)があったり、ワーグナーが弾いたといわれるパイプオルガンがある大聖堂があったりと、初めて訪れたリガは様々な文化・芸術の集合体に思えた。そして最後に訪れたのが「占領博物館」。政治犯として逮捕された人々がどのような生活を強いられたのかが展示されていた。

あちこち歩いてみたもののまだ約束の時間には早かったので、ラトヴィアの民族音楽のCDでも買ってみようとCD店に立ち寄った。そこで、CD屋のお姉さんが勧めてくれた民族楽器による音楽CDや、ラトヴィアの作曲家によるCDを数枚購入したのだった。そのなかにペーテリス・ヴァスクス(Pēteris Vasks, 1946-)のCDもあった。

なぜ突然こんなことを書き始めたのかというと、2009年5月8日(金) 19:00~に東京シティ・フィルが東京オペラシティ・コンサートホールでこのヴァスクス作曲の『弦楽のためのカンタービレ』(1979)を演奏するというので、久しぶりにヴァスクスのCDを聴き、ラトヴィアのことを思い出していたからである。

いずれも今はなきConifer Classicsというレコード会社からリリースされたもので、その当時リガで購入したのは、"message""chamber music"の2枚。そして先週たまたま立ち寄った新宿のCD屋さんで3枚目の"cello concerto" (リトアニア人チェリストのゲリンガスによる演奏)を発見!もう一生手に入ることはないだろうと思っていた一枚だったのでとても嬉しかった。

"message"
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"chamber music"
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"cello concerto"

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そして今日、"message"のライナーノーツを読んでいたら4月1日のブログでご紹介したポドニエクス監督のドキュメンタリーについて触れられているではないか!これら3枚のCDをConifer ClassicsからリリースしたプロデューサーのJohn Kehoe氏によるノーツには、1991年1月にリガとヴィリニュスで起こった惨事のことや、ユリス・ポドニエクス監督制作のドキュメンタリー映画のこと、また彼の親友であった二人のカメラマン、アンドリス・スラピンスとグビード・ズバイグスネがその一連の惨事で負傷し亡くなったことが記されていた。またKohoe氏はちょうどその頃、ラトヴィア人ハーフで指揮者のクリシュス・ルスマニスによるBBC Radio 3のためのバルト三国の音楽のプログラムを聴いて、多くの新事実を見出した。その後、すぐにルスマニス氏に会いスコアを見せてもらい、録音も聴かせてもらったそうだ。話をしていくうちに、そのルスマニス氏がポドニエクス監督のドキュメンタリーもプロデュースしていたという事実も知ることとなった。その後Kohoe氏はルスマニス氏とラトヴィアに渡り、30人ものラトヴィア人作曲家と出会うことになった。そこで、彼の耳に留まったのがヴァスクスだったのである。

ヴァスクスについてはまた後日ゆっくりと紹介させていただくとして、今日はこの代表的なCD “message”から、5月8日に演奏される予定の”Cantabile for string orchestra (1979)とヴァスクスの代表作である”Musica dolorosa (1983)”の2曲を紹介しておきたい。

“Cantabile”はヴァスクスがピアノの白鍵しか使わずに作曲した弦楽のための作品で、「この世界がいかに美しく調和のとれたものであるかをこの8分間で伝えたかった」とのこと。しばしばパターン化された偶然性のパッセージやミニマリズム的なフレーズも聴こえるが、決して単調ではなく、絶え間なく奏される低音の上で、サイレンのような弦楽器のグリッサンドや突然のピッチの降下などが起こり、とても斬新である。ヴァスクスによれば、「音楽とは感情に基づく芸術で、もしそこに感情がなければ芸術もない。」とのことである。

“Musica Dolorosa”は、ヴァスクスの最も個人的で情熱的な作品である。この作品はこれが書かれる少し前に亡くなったお姉さん(妹さん)に捧げられた。この音楽はとてもメロディックな音楽と言いたいが、ヴァスクスはこれをメロディーとは呼ばず、自分が作曲するにつれて成長する主題の粒で、作品の創作のために積み上げているレンガのようなものであるとしている。この作品が書かれたのは、個人的に悲しい時期であったばかりではなく、ラトヴィアの政治的状況がもっとも厳しい時期でもあった。「この作品は私のもっとも悲劇的な作品であり、そこにオプティミズムはなく、希望もなく、あるのは痛みだけである。」と。

最近はRCAから同CDが再リリースされていますので、ご興味のある方はぜひどうぞ。


"message"
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by ciurlionis | 2009-04-28 23:59 | 音楽